. Sprint & Conditioning~
Sprint & Conditioning~
Sprint & Conditioning~

ウォーミングアップの科学から実践メニューを考えた

ウォーミングアップの効果をさらに高める方法(活動後増強・PAP:Post Activation Potentiation)

ウォーミングアップの効果を高める刺激

ウォーミングアップでは、その種目に応じた力発揮の準備を行う必要があります。そして、この力発揮を高めてよりパフォーマンスを引き出すためには、 「神経系の準備」 をしなければいけません。

ここでいう「神経系の準備」とは、筋線維をより多く、タイミングよく動員させたり、脳や脊髄と言った中枢からの刺激発射頻度を高めることによって 「より速いスピード、より大きなパワーを効率的に引き出せる状態を作る」 ことを指します。

これは、例えば野球選手が軽いバットを全力でスイングしたり、短距離選手が通常のトップスピード以上の速さで前から引っ張られたり(トーイング走)、普段よりも高い神経系の働きを行わせることによって得られるものです。これは、 活動後増強(PAP:Post Activation Potentiation) とも呼ばれており、一時的に筋力やパワー、スピードを高める手段、現象として知られています。

参考動画(トーイング走)

参考動画(高強度のスクワットで刺激を与えて、垂直跳びのパフォーマンスUPを狙う)

実際に、Chen et al.(2020)の研究では、プライオメトリクス(スクワットジャンプ、シザージャンプ、両脚連続ジャンプを各8回2セット)を実施した後では、体重の20%のウエイトベストを着て走って刺激を与えたグループや、ただランニングを行っただけのグループよりも、走りの効率(走の経済性:ランニングエコノミー)が4~9%ほど改善されたと報告されています。

ウォームアップの効果をさらに高めるには、これらを有効活用しよう

・実際の種目に近い力発揮 ・それよりも高いスピード、筋力での力発揮 ・ジャンプのようにバネを使う刺激

ウォーミングアップの注意点

しかし、 ウォーミングアップは状況によってはいつも通りのやり方が逆に悪影響を及ぼしてしまう場合もあります。 以降、その注意点について紹介します。

気温に注意しよう

短時間の高強度運動でのパフォーマンスは、外部の気温によって大きく左右される こともあります。その日の気温に合わせてウォーミングアップの量や、寒さ対策について考える必要があります。

一方、マラソンなどの持久系の運動の場合は、 身体の温め過ぎに注意 する必要があります。夏場の暑い日に筋温が高まった状態でレースに臨むと、レース中にさらに身体温度が高くなり、運動を継続できる時間が短くなってしまうことがあるからです。そのような非常に暑いコンディション時には、逆に運動前に身体を冷やしておく方が、有利に働きます。

アップし過ぎに注意しよう

いくらウォーミングアップと言えど、立派な運動です。それはやり過ぎれば疲労が溜まってしまいます。先に紹介した「活動後増強(PAP)」を狙って、 高強度、ハイスピードの運動を行うにしても多量実施してしまえば疲労が蓄積してしまいます。

また、何気ない運動、そんなにつらくない運動であっても、それを長時間続ければ筋肉の中のエネルギー源(グリコーゲン)が大きく減ってしまい、本番で高い出力を発揮できなくなってしまうことも考えられます。

特に、1日に何レースも行う場合、競技時間が長い場合は、トータルで見ると知らないうちに何時間も動きっぱなしの状況になっています。そんな中で毎回アップを入念に行っていれば、エネルギーが枯渇してしまうのも時間の問題です。 「今本当にアップが必要なのか?どれくらい必要なのか?」 を考えつつ、糖質やタンパク質などの栄養を補給しつつ、競技に備える工夫も必要です。

アップと試合までの時間差に注意しよう

試合では、ウォーミングアップに専念できる時間が限られていることがあります。特に、招集が始まって競技場内に誘導されてしまうと、思うようにアップができなくなってしまう、 アップを行ってから30分~50分経ってしまうこともザラ にあることでしょう。一度高まった筋温は簡単に低下することはありません。しかし、特に気温が低い場合、1時間近くじっと待たされてしまえば、身体は冷えてしまいます。

静的ストレッチの強さ、長さに注意しよう

これに関して、Simic et al.(2013)の研究では、静的ストレッチが運動パフォーマンスに及ぼす影響について、104つの研究を基に考察し、特に、 静的ストレッチ後は、筋力、パワー、ジャンプ、スプリント、力の立ち上がり率(RFD)においてネガティブな影響がある と結論付けられています。

特定の可動域に制限があって、それが目的のパフォーマンスを制限していると判断できるのであれば別ですが、 試合の直前に「じわじわと伸ばす」静的なストレッチを多く実施するのは推奨できない と言えます。

ウォーミングアップの具体的な方法

①軽く身体を動かして状態をチェックしよう

体育の授業でやるような準備運動でもよいので、まずは身体を動かしてみましょう。股関節や膝、足首、腰回り、上半身など、 色々な関節の動きをチェック してみます。ここで身体に異常がないかを確認しておくことは、怪我を防いだり、トレーニング内容、試合の内容を考える上で重要な意味を持ちます。

身体に違和感がある場合は、その後の運動を取りやめたり、その部位を軽くほぐしたりしておきましょう。 痛みがあるときは必ずチームの指導者に相談してください。 テニスボールやフォームローラーを使って、気になる筋肉を刺激しても良いでしょう。その場合は、強引にほぐしすぎないように注意してください。

②身体を温めよう

軽いジョギングなどで身体を温めます。ジョギングでなくとも、以降に紹介する動的ストレッチや簡単な種目のドリルを行いながら温めるのでも良いでしょう。競技レベルやその日の気温にもよりますが、5~15分程度、ある程度連続的に身体を動かせるものが良いかもしれません。最終的に筋温が高まらないといけないので、目安としては 「少し汗ばむ」 ことを目指して実施します。

とは言え、当然動き過ぎには注意です。筋温はすぐに下がるものでもないので、きついなと思ったら 恐れず休息を挟みましょう。

また、筋温を上げることが目的になるので、それを効率よく行おうと思ったら、服装は 「やや厚着」 にしておきましょう。ウォーミングアップでの動きの邪魔にならず、かつ身体が温まる服装であればベストです。加えて、その日が非常に寒い場合は、事前に軽くシャワーを浴びるなどして身体を温めておくことも有効です。

③可動域を確保しよう

次に、関節の可動域を確保します。目的の種目によって異なる部分はもちろんあるでしょうが、股関節や肩関節、体幹部の可動性はあらゆる運動パフォーマンスに関わります。腰回りは安定させながら、股関節を大きく動かすハードルドリルを実施したり、姿勢を安定させながら、肩や股関節を連動させて行うダイナミックなストレッチを行うのもアリでしょう。

参考動画

④種目に応じたドリル、動きの確認をしよう

参考動画

⑤その種目の部分練習・全体練習をしよう

その後、高いスピードで流しをしたり、その 競技種目の部分練習 を行います。その日の調子を確認しながら、その日最もパフォーマンスを発揮できるための技術の調整をすることが重要です。短距離であれば、スターティングブロックからの加速、跳躍であれば短い助走からの踏み切り、助走合わせなどで、いつもの動きとの誤差を確認しておきましょう。

⑥その種目で最高のパフォーマンスをするための「事前刺激」を入れよう

短距離走であれば、先に紹介した「トーイング走」を実施したり、長距離走でも軽くジャンプ系の運動を入れたりして、 スピードを極限まで引き出す、走りの効率を高めるような運動 を行いましょう。これは、試合の前ならウォームアップの最後、招集時間の直前くらいに実施しておきます。招集開始からレース、試技まで30分以上空くことが多いからです。

自分だけのウォーミングアップをデザインしよう

冒頭部分でも述べた通りですが、 ウォーミングアップは「自分自身」のパフォーマンスを極限まで引き出せるものであればなんでも構いません。 ウォーミングアップは自分の精神を整えて、集中するための時間でもあるため、一概に「これが良い!これはダメ!」と断言できるものは無いわけです。

とは言え、今まで良いと思ってきたウォーミングアップの内容が、実はパフォーマンスに悪影響だった、もっと良い方法があった…というケースは多いのではないでしょうか?それを模索するために、ここまで説明してきたウォーミングアップの効果や注意事項を参考にして頂ければ幸いです。

参考文献

・R. Larson(2016)ウォーミングアップとクールダウンをカスタマイズする:塩田徹訳.ハイパフォーマンスの科学(High performance training for sports),D. Joyce & D. Lewindon編:野坂和則・沼澤秀雄監訳,ナップ,pp.103-117.・Chen et al.(2020)A Plyometric Warm-Up Protocol Improves Running Economy in Recreational Endurance Athletes. Front. Physiol. 11:197.・Ball, D., Burrows, C., & Sargeant, A. J. (1999). Human power output during repeated sprint cycle exercise: the influence of thermal stress. European journal of applied physiology and occupational physiology, 79(4), 360-366.・Parkin, J. M., Carey, M. F., Zhao, S., & Febbraio, M. A. (1999). Effect of ambient temperature on human skeletal muscle metabolism during fatiguing submaximal exercise. Journal of applied physiology, 86(3), 902-908.・Simic, L., Sarabon, N., & Markovic, G. (2013). Does pre‐exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta‐analytical review. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 23(2), 131-148.

~サイト内の関連記事を検索~

Youtubeはじめました(よろしければチャンネル登録お願いします)。 陸上競技の歴史 短距離走とは? 短距離走のエネルギー トレーニングの原理 トレーニングの原則 「走り」を理解するための「ニュートンの法則」
  • 短距離走に最も必要な筋肉と筋力トレーニング方法
  • 足が速い人の特徴「陸上短距離におけるフォームの科学」
  • 陸上短距離(100m 200m 400m)における後半の速度低下を改善させたい人へ
  • サルでもわかる、伸張性収縮(エキセントリック収縮)の特徴
  • 陸上短距離走者における「足の流れ」の原因と改善方法
  • 最大スピードを高めるトレーニング
  • 幼児、小学生が優先すべき「からだ」のトレーニング―早期専門化と基礎体力・運動能力―
  • 子供の熱中症を防ぐために
  • トップスピード獲得には、身体のより後ろ側までキックできた方がいいのか?~スプリントと離地距離~
  • スプリンターのウエイトトレーニングを効率化するVBT(Velocity Based Training)
  • 足は強く振り下ろす?地面を叩くのはダメ?~疾走速度とパウイング~
📎📎📎📎📎📎📎📎📎📎