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Netflix;これはアメリカじゃない | シネマンドレイク:映画感想&レビュー
Netflix;これはアメリカじゃない | シネマンドレイク:映画感想&レビュー

ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム

アメリカ全土で吹き荒れる人種差別への怒りの抗議デモに対して 「軍を投入してやるぞ!」 と脅す大統領がいるかと思えば、感染症対策として“夜の街”に出歩く人を減らすため 「見回り隊を歩かせます!」 と実行させる知事もいる。どこの世界も権力者の方は人民をコントロールするためにあの手この手を考えるものです。 たいていは失策なのですけど、 実行する当人はなぜか自信満々。大衆を統率することに酔っているのでしょうかね…。

今回の紹介する映画もそんな 国民をコントロールするべく行った大規模な施策が引き金になって起きる大事件 を描いたクライムサスペンスです。それが本作 『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』

具体的に何がどうなって何が起きるのかというと、 アメリカ政府が国民の脳を影響を与えるシグナルを電波塔から発信し、それによって犯罪を起こす思考を妨害し、暴力行為を止めさせる という、なかなかにSFな世界観設定になっています。そうなってしまうと犯罪不可能になってしまうわけで、街で悪事を働かせて稼いでいた主人公の男は立場を失い、そこでそのシグナル発信開始日の前にどでかい大犯罪をやってしまおうと画策します。まさにタイトルのとおり 「アメリカの犯罪の最後の日」 なわけです。

ここまでアメリカを全開に謳った映画であるのですが、監督はフランス人の “オリヴィエ・メガトン” です。彼と言えば、 『トランスポーター3 アンリミテッド』『コロンビアーナ』『96時間 リベンジ』『96時間 レクイエム』などのアクション映画 の監督であり、もっぱらリュック・ベッソン作品と一緒の人でした。それが今回はアメリカを舞台にアメリカ映画を作っており、ちょっとした挑戦なのかな。シリーズの続編ばかりが多かったですしね。ちなみに「メガトン」という一風変わった芸名を持っていますが、これは“オリヴィエ・メガトン”が広島の原爆投下からちょうど20年後になる1965年8月6日生まれで、それに由来しているらしいです。

俳優陣は、主人公を演じるのは “エドガー・ラミレス” です。ベネズエラ出身ですがハリウッドでも活躍するようになり、語学力が堪能なのを活かして手広くサイドを固めている人という印象。『ゼロ・ダーク・サーティ』や『X-ミッション』など幅広い作品に出てきましたが、今回の『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』はハードボイルド全開ですね。

他には『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』や『ラストデイズ』の “マイケル・ピット” がかなりヤバめの個性濃すぎるキャラを熱演。たぶん本作の中でも別格で記憶に刻まれる奴です。こういう役がやっぱり向いているんだなぁ…。

ヒロインとして “アンナ・ブリュースター” という女優が目立つかたちで出演しているのですが、私はこの人をちゃんと認知したことがなかったのですけど、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』においてマズ・カナタの酒場で敵に主人公の到着を密告する人物役でちょこっと出ていたんですね。絶対に言われないとわからないけど…。

あとは『第9地区』でおなじみの “シャールト・コプリー” が今作では浮いた感じで登場し、事態をかき回してくれます。

『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』はちょっと難点があって、それは映画時間が 約2時間30分もある ところ。この手のジャンル映画にしてはかなり長編で、気軽に観れないのでやや取っつきにくいです。なるべく時間がたっぷりとれるなと思ったときに腰を据えて鑑賞してみるのがいいと思います。

ひとり ◯(犯罪モノが好きならじっくりと) 友人 ◯(やや長いので付き合わせづらい) 恋人 ◯(やや長いので付き合わせづらい) キッズ △(犯罪&性描写多め) ↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』感想(ネタバレあり)

史上最大の犯罪を成し遂げたい

「軽油を探してきてやった。ゆっくり燃えるからいいんだ」…そう言い放つ男。彼の名前は グラハム・ブリック 。軽油を使って何をするのか。暖をとるための気の利いたサービス…なわけはありません。

「俺の仲間が許さねぇぞ」と軽油まみれの男に言われても手は止めません。 「デュモイ家がお前を始末するぞ」 と脅されるも、逆に脅し返すブリック。観念したのか男は 「ジョニー・ディーがお前を裏切ったんだ」 と喋ります。それを聞いたブリックはその男に葉巻をくわえさせて立ち去るのでした。その部屋は死屍累々です。

ブリックが建物を出ると、 盛大に大爆発 。全然ゆっくり燃えてないじゃないか…。

ここはアメリカ。 「APIシグナル」 の発信まで1週間というチラシが目につきます。報道もそればかりを伝えます。この聞きなれない単語、「American Peace Initiative」の頭文字が「API」であり、これは 脳内シナプスを遮断して違法行為をできなくするもの らしいです。つまり、人々は銃や暴力を使った犯罪ができなくなります。

かつて、この地域の街を牛耳っていたのはデュモイ家という犯罪一族です。 彼らに上納金を払えば自由に行動できることになり、 犯罪を生業にしていたブリックも従うしかありませんでした。加えてブリックにとっては弟の ローリー が唯一の弱みであり、実はこのローリーは刑務所に入ることになったのです。調子に乗っているローリーに忠告しますが、どこか弟はお気楽。

犯罪が不可能になったことを悟ったブリックは上納金700万ドルをなくしたと嘘をつき、カナダへ逃げる資金にすることにします。そこへ ローリーの自殺の知らせ が…。さらに自分のあてにしていたカネも例の裏切りでなくなり…。

バーで酒を飲んでいると、 ある女 が目につきます。その女はブリックに意味深な視線を送り、流れのままにトイレで体を重ねることに。

しかし、バーに戻ると自分を探す いかにも怪しい長髪男 がいました。銃で脅すとその男はとんでもないことを言いだします。なんとローリーは自殺ではなく看守に殺されたとのことで、なぜかその男はローリーと知り合いらしいのです。しかも、あの女、 シュルビー・デュプリー はその男、 ケヴィン・キャッシュ のフィアンセだと言うではないですか。つまり、探りを入れられたのでした。

ケヴィンには復讐計画があるとのこと。それは 10億ドルもの大金を奪う案 で、APIシステムを一時的に停止して実行するという作戦。どうやらこのケヴィンは大物犯罪組織の一家のダメ息子で、せめてアメリカで犯罪ができなくなる前に 自分の犯罪者としての名をあげたい という思惑があるようで…。

なんでこんなまどろっこしいんだ…

しかし、本作はそのどれもが一個も正常に作動していないという 「どうしてこうなった」ムービー の典型的パターンのようにも思える…。

いや、良い部分もあります。“マイケル・ピット”演じるケヴィンは仏頂面の主人公ブリック以上にはるかに魅力的なキャラクターで、 もうコイツだけでいいのでは? というくらいの存在感を終始発揮してくれます。個々のキャラ自体は別に悪くはないです。

まず肝心の犯罪計画のサスペンスがイマイチわかりにくいです。 この計画のどこに課題があって、それをどうクリアしていくのか、 それがあまり見えてこないのですよね。自己鍛造弾(強力な弾頭だと思ってもらえればいいです)が必要と言っても、問題は金庫よりもどうやって逃走するかではないかと疑問に思うものですし、それがどう描かれるのかと思ったら、 普通に強行突破 ですよ。なんて雑なんだ…。

ヒロインとのロマンスも唐突で、まず序盤のトイレセックスシーンもあのBGMをバックにヤるという 最もダサい演出 にうんざりですが、以降もそんなに意味もなく二人の関係は構築され、私はなぜ二人がこうも惹かれ合うのか全然理解できずにエンディングを迎えていました。

そのテクノロジー、雑すぎない?

APIシグナルの仕組みはどうでもいいのです。問題はSFとしての納得がいく実在感があるかということ。これは結局、 何を防いで何を防げないものなのか、 そこが曖昧なのが困りもの。暴力はアウトで、銃を撃つのもアウト。でも終盤のシーンを見る限り、揉み合いとかをするのはセーフらしくて、ハッキング動作も続けられる。直接的な殺傷につながるものだけブロックするのかなと思ったけど、でも自己鍛造弾を運ぶ手は止まる。映画を観ている間、どういうこと?という疑問が頭を埋め尽くす…。なんだこの使えるのか使えないのかわからない雑なテクノロジーは…。

正直、 この程度の脆弱なテクノロジーならそんなに怖くないのではないか と思います。そもそもこのクオリティで犯罪は防げるのか。他にもいくらでも犯罪手段はありますし、シグナルの影響を受けない犯罪方法を見つけるのも容易いじゃないか、と。

当然、政府の目的は犯罪抑止を名目にした大衆管理社会の構築にあると考えるのが妥当です。でも そこまでのSF的な問いかけはしていない のですよね。

結果的にはこのAPIシグナルは シナリオの非常に便利な道具でしかなく、 キャラの行動を適度に制限しているだけで、世界観としての整合性は何もないです。

アメリカの正義を侮るな

そのことで多くの批評家が本作に幻滅し、私もこれはマズいなと思うのが 本作の「アメリカ」という国を捉える認識の空振り具合 です。

そもそも本作は配信タイミングが最悪と言えるでしょう。ご存知の方はよく知っているとおり、2020年6月のアメリカは大変なことになっていました。2020年5月25日にミネアポリス近郊で警察官に殺害されたアフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイドの事件に端を発して 全米中で抗議デモが勃発 。一部で暴徒的な動きがあったものの、大半は平和的なデモ活動を展開し、警察や権力に対して人種差別の解決を訴えています。

つまり、アメリカで一番に問題視されているのは 警察の暴力 なのです。市民ではなく。そして市民の暴力に論点をすり替えているのは他でもないトランプ大統領なわけで。

一方の本作は端から市民の暴力を管理するという題材になっており、警察にさらなる特権を与えています。でも現実のアメリカを見ればわかりますが、もしそんなことをしたらアメリカではどうなるか。 間違いなくアメリカ中の人たちが抗議デモで街を埋め尽くすでしょう。 それこそ保守層だって黙っていないと思います。個人で銃も撃てなくなりますからね。そんな政権、1週間も持たないです。

本作で描かれている近未来アメリカは いくらなんでも突拍子もなさすぎるし、 リアリティの欠片もないものです。

一応、作中で ソーヤー という警官のキャラを登場させ、警察の暴力性をそれっぽく描いてはいるものの、すごく表面上の描写にすぎないのでさっぱり響いてもきません。

地球外生命体に統治された未来のアメリカを描く 『囚われた国家』 とか、経済崩壊で支配構造が拡大した未来の韓国を描く 『狩りの時間』 とか、その社会の近未来をディストピア的に巧みに描いた作品は他に観てきました。そしてそのどれにも、やはり 社会問題を精査して正確に認識できる眼力 は必須だし、実際に作品に備わっていました。

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『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』にはそれが皆無だと言わざるを得ないでしょう。本作の作り手はどうもアメリカを「犯罪いっぱいの国」程度にしか思っていないのではないか。 そこにある多様な正義や価値観の絡み合いを知覚してすらいないのではないか。 そう思ってしまいました。

『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』 ROTTEN TOMATOES Tomatometer 0% Audience 29% IMDb 4.0 / 10 シネマンドレイクの個人的評価 星 2/10 ★★

作品ポスター・画像 (C)Radical Studios ラストデイズオブアメリカンクライム

The Last Days of American Crime (2020) [Japanese Review] 『ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム』考察・評価レビュー

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