. MITが解明した“あり得ない”量子現象と、奇妙な準粒子「エニオン」の正体 | XenoSpectrum
MITが解明した“あり得ない”量子現象と、奇妙な準粒子「エニオン」の正体 | XenoSpectrum
MITが解明した“あり得ない”量子現象と、奇妙な準粒子「エニオン」の正体 | XenoSpectrum

「物理学の新たな章」の幕開け:MITが解明した“あり得ない”量子現象と、奇妙な準粒子「エニオン」の正体

しかし2025年、この鉄則が覆された。通常であれば互いに排斥し合うはずのこの2つの量子状態が、特定の物質内で共存している様子が観測されたのだ。この不可解な現象は世界中の科学者を困惑させたが、ついにマサチューセッツ工科大学(MIT)の理論物理学者たちがそのメカニズムを解明し、学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)』にて発表した。

物理学のタブーを破る「ジキルとハイド」の共存

「水と油」の関係:超伝導と磁性
  • 磁性(Magnetism): 物質内の電子が持つ「スピン」と呼ばれる回転運動が、特定の方向に整列することで生じる。いわば、個々の電子が自我を持ちながら一方向に協力して引っ張り合う、強力な秩序の状態である。
  • 超伝導(Superconductivity): 電子が「クーパー対(Cooper pairs)」と呼ばれるペアを形成し、物質内を抵抗ゼロで移動する現象。このペア結合は非常に繊細であり、外部からの干渉を極端に嫌う。
2025年の衝撃的な観測結果

しかし、2025年に行われた2つの独立した実験が、この定説を打ち砕いた。一つはMITのLong Ju教授らのチームによるもので、5層のグラフェンを重ねた「菱面体晶グラフェン(rhombohedral graphene)」において、超伝導と磁性が同時に観測された。もう一つは、ワシントン大学などのチームによるもので、半導体結晶である「二テルル化モリブデン(MoTe₂)」を用いた実験である。

特に注目すべきはMoTe₂での観測だった。この物質が超伝導状態になる条件は、同時に「分数量子異常ホール効果(Fractional Quantum Anomalous Hall effect, FQAH)」と呼ばれるエキゾチックな現象を示す条件と一致していたのである。

この「あり得ない共存」を目の当たりにしたMITの物理学教授 Senthil Todadri は、当時をこう振り返る。「それは実に衝撃的(electrifying)でした。学会場は騒然となり、一体どうすればこんなことが可能なのか、誰もが疑問を抱きました」

第三の粒子「エニオン」とは何か

ボース粒子でもフェルミ粒子でもない存在
  1. フェルミ粒子(Fermions): 電子や陽子、中性子など、物質を構成する粒子。これらは「排他原理」に従い、同じ場所に同じ状態で存在することを嫌う、孤独を愛する粒子である。
  2. ボース粒子(Bosons): 光子(フォトン)など、力を媒介する粒子。これらは同じ状態に無数に重なることができる、社交的な粒子である。

しかし、2次元(平面)の世界に限定された特殊な条件下では、このどちらにも属さない「第三の粒子」が存在しうる。それが「エニオン(anyon)」だ。1980年代にその存在が予言され、ノーベル物理学賞受賞者のFrank Wilczekによって、「何でもあり(Anything goes)」な振る舞いをすることから名付けられた。

電子の「分数化」という奇跡

Todadri教授と、共著者である大学院生のZhengyan Darius Shiは、このエニオンこそが、磁性の中で超伝導を生き残らせる「抜け道」であると直感した。

理論の核心:エニオンはいかにして超伝導を生むか

1. 「フラストレーション」からの脱却

しかし、研究チームが場の量子論(Quantum Field Theory)を用いて計算を行ったところ、特定の条件下でこの膠着状態が劇的に変化することが判明した。

2. 電荷密度が運命を決める
  • 1/3電荷のエニオン: これらが支配的な場合、エニオンは動きにくく、通常の金属的な伝導や、あるいは絶縁体のような振る舞いを見せる。
  • 2/3電荷のエニオン: ここにブレイクスルーがあった。エニオンが電子の2/3の電荷を持つ場合、それらは「フラストレーション」を打破し、互いにペアを組んで抵抗なく流れ始めることができるのだ。
3. 通常の電子ではなく、エニオンがペアを組む

従来の超伝導(BCS理論)では、通常の「電子」がクーパー対を作っていた。しかし、今回のMITの理論が示すのは、電子が分数化した「エニオン」自体がペアを組み、超伝導電流(スーパーカレント)を運ぶという、全く新しいメカニズムである。この状態では、背景に磁性が存在していても、エニオンのペアはその影響を受け流し、摩擦ゼロで流れることができる。これは、従来の超伝導とは根本的に異なる、物質の新しい相であると言える。

4. 「異常渦グラス(Anomalous Vortex Glass)」状態

さらに論文では、この超伝導状態への移行プロセスにおいて、「異常渦グラス(Anomalous Vortex Glass, AVG)」と呼ばれる特異な状態を経由することが示唆されている。エニオンが超伝導体に変化する際、局在していたエニオンの一部が「渦(vortex)」へと姿を変える。絶対零度(T=0)付近では、これらの渦がランダムに固定されたガラスのような状態となり、温度が上がると渦が動くことでわずかな抵抗が生じる。この理論的予測は、実験で観測された非線形な電圧特性とも一致しており、理論の正当性を強く裏付けている。

エニオン量子物質(Anyonic Quantum Matter)の誕生

量子コンピューティングへの「聖杯」

理論から実証へ

論文

  • PNAS: Anyon delocalization transitions out of a disordered FQAH insulator

参考文献

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