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令和時代に望まれるスタジアムのあり方とは?クラブライセンス事務局の「中の人」に訊く(前編)

大城 まず、オランダのフィテッセが使用しているヘルレドーム。引き出し型のピッチで、設計段階からサッカーの試合だけでなく、コンサートやイベントなど複合的な活用を想定して作られているんですね。それからFCスパルタク・トルナバ(スロバキア)のシティ・アレナ。中央駅から徒歩10分くらいのところに、映画館やショッピングセンターやカジノが一体化したスタジアムがあって、試合以外の日でも人が集まれる場所を目指しているという点で印象に残っています。

大城 そうですね。途中、ミュンヘンのアリアンツ・アレナも周りましたけど、Jリーグの規模感に合わせた視察先を選びました。それとこの時は、各地のスタジアム構想に関わっている建設会社や設計会社やゼネコンにもお声がけして、そういった業界の方々にもイメージしやすい、コンセプトが明確なスタジアムを選んでいます。

大城 ありましたね。ひとつ目は、フットボールスタジアムというものを、Jリーグの中でいかに実現させていくかということ。それとアクセスですね。デュッセルドルフのスタジアムは駅のプラットホームと直結していましたし、それ以外にも現実的なビジネスを考えて街中の人が集まりやすいところにスタジアムを建設する傾向が見られましたので。

大城 そうなんですよ。普通のファンの方でも、少し余分なお金を支払うことで、試合の前後で美味しい食事を楽しめるんです。そういう文化やビジネスモデルといったものは、われわれも導入しなければならないと感じています。ですので、すぐに「義務化」というわけではないんですが、われわれが考える「理想のスタジアム」の中に明記しておきました。

大城 まず、背景のところからご説明します。これまでにもJリーグは、天然芝のピッチだったり、夜間照明だったり、屋根のカバー率だったり、プロサッカーリーグの興行に必要な基準を定めてきました。今回、基準を改定するにあたっての課題は2つあって、1つ目が「競技性の公平性」、2つ目が「基準充足に向けた投資」でした。

大城 そうです。いずれのクラブも、プレーオフ進出や昇格の条件を成績面ではクリアしていたのに、いずれもクラブライセンスを持たなかったために見送られました。でも、そもそも競技成績で決まるべきものが、それ以外の案件で決まるというのはインテグリティー上のリスクがあるのではないか。

さらに言えば、ライセンスを持たないクラブが半分くらいあるJ3だと、何のために戦っているのかわからなくなってしまうのではないか? そもそも小さな街のクラブでも、結果を残せばトップリーグまで目指すことができるはずなのに、施設基準によってその機会を奪っていいのか? それが「競技性の公平性」という課題でした。

大城 われわれとしては、スタジアムに来ていただくお客様に、素晴らしい観戦環境を提供して、そのことでクラブも潤うことをイメージして(ライセンス)基準の設定をしているんです。ところが、どうしても「数合わせ」みたいな改修が行われる事例があるんですね。1万5000人の基準を満たすために不格好な増席をしてしまうとか、あまり機能しない屋根を形だけ置いてしまうとか。

大城 これに関しても、言い方がすごく難しいんですよね。自治体側としては、基準を満たすために税金を使って改修しているわけですから、本来なら大変ありがたいことなんです。でもそれは、われわれが意図している投資とは、ちょっと違う。せっかくお金を入れていただけるのであれば、たとえばもう少し時間をかけて、小さいけれども劇場のようなスタジアムを作っていただくほうが絶対にいい。そういった思いもあるわけです。

──これもすごく重要な話で、要するにクラブやその向こう側にいる自治体側とのコミュニケーションの問題ですよね? ライセンスに込められたJリーグの意図が、行政側に上手く理解されていない、ということでしょうか?

大城 そう捉えています。そこで今回の改定で、初めて「理想のスタジアム」というものを打ち出すことにしたんです。それは、われわれの意図を世の中にきちんと発信できていなかったのではないか、という反省があったからです。行政側に届いていなかったから、彼らも基準を満たすことに重きを置いてしまって、その先のクラブの発展とかスタジアムの理想形といったものに対して、なかなかイメージが至らなかったのではないかと。

大城 ですので「競技性の公平性」と「基準充足に向けた投資」という2つの課題を整理して、現行の基準を見直すことで解決したいというのが今回の改定だったわけです。

大城 私の部署は、これからJリーグに入りたいクラブの窓口になっていて、入会の審査とか百年構想クラブの対応もやっているんですね。先ほど国体のお話をされましたけれど、これからは地元開催の国体のための施設を当て込んで、Jリーグを目指すクラブが増えてくることが予想されていました。

大城 そうです。一方でJリーグとしては、将来的には「フットボールスタジアムが必要」という認識のもとで入ってきていただきたいので、それをルール化するための議論を始めたわけです。するとクラブ社長が集まる実行委員会で、かなり議論が紛糾したんですね。現状のJクラブの半分以上が、陸上競技場をホームスタジアムとしているのに、新たに参入するクラブに対してハードルを上げるのは、上から目線ではないかと。

大城 ですので、まずは既存のクラブのスタジアムをどうするかという検討をした上で、新規参入の決めるべきだろうという議論になって、将来的な基準を見直す検討部会を立ち上げました。それが16年の11月とか12月くらいの話です。議論の中では「2030年までにフットボールスタジアムを義務化する」くらいの強いメッセージを打ち出すことも検討されていました。

大城 そうですね。ただし2030年ビジョンの中で、スタジアムだけを突出させるわけにもいかなかったので、結局それを打ち出すことはしませんでした。それでも検討の過程で、今のスタジアムが抱えている課題、あるいは現状の基準がはらむ課題を見直す契機にはなりました。一方で、収容率が半分以下のJ2クラブにフットボールスタジアムを謳ったところで、地元の人には響かないんじゃないかと。「まずは集客アップ」ということであれば、整備の面で後押しする意味でも基準の改定は必要、ということになったんですね。

大城 実は基準の影響を受けそうなクラブについては、実行委員会の場だけでなく、個別にお話をさせていただいていました。要するにJ2ライセンス、あるいはJ3ライセンスしか持っていないクラブですよね。ざっくりとした方針をお伝えして、議論を重ねながら詳細を詰めていったので、大きな反発みたいなものではなかったです。

大城 それはありましたね。実際に実行委員会の場でも、いろいろ議論させていただきました。でもJ1が1万5000人、J2が1万人という入場可能数について、今回は改定しないという結論になりました。というのも、われわれが「J1も1万人でいいです」と言ってしまうと、新たにスタジアムを作る自治体は「じゃあ、ウチは1万人で」ということになってしまう。それはクラブの将来の伸びしろにフタをしてしまうことになってしまうわけです。

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)

写真家・ノンフィクションライター。 1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続け、スポーツナビを中心に積極的な取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は05年大会から継続中。 10年に有料個人メールマガジン『徹マガ』を開始(16年6月末まで)。17年7月より『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』の配信を開始。

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