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東京女子醫科大学退職強要損害賠償 - 東京地判平成15年07月15日(民事判例)

第2 事案の概要 本件は,25年間にわたって被告大学の助教授であった原告が,被告らに対して,被告大学の歴代の主任教授ら(被告aは平成10年以降の主任教授)による退職強要行為により退職を余儀なくされて損害を受けたと主張して,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(及び訴状送達後の遅延損害金。なお,被告aに対する請求とその請求額の限度の被告大学に対する請求とは,連帯債務の関係に立つ。)を,被告大学に対して,不当な差別意思により教授昇格を違法に阻んだと主張して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求(及び訴状送達後の遅延損害金)をしている事案である。

イ 昭和63年3月,被告大学脳神経外科のカンファレンスにおいて,b教授は,原告は被告大学から出て行けという趣旨の発言をした。ウ 平成4年10月,被告大学脳神経外科主任教授に就任したe教授は,原告を被告大学病院脳神経センターの5階病棟の病棟医長職から外した。

エ e教授は,着任直後,原告が中心となった研究グループを解体した。オ 平成7年1月,何者かにより原告担当の脳腫瘍の患者の手術が当日に中止扱いとなった。

カ 平成7年10月,被告大学の原告あての郵便物が届かなかった。キ 平成10年の日本定位・機能神経外科学会の第27回大会において,原告は会長職から外され,e教授が会長となった。

ウ 原告の主張シについて。被告aによる文書配布の趣旨は,臨床,教育,研究という大学病院における教職員の職責の自覚を図るため,スタッフの中でほとんど手術をしない4名(原告を含む。)のスタッフの自覚を促すものであり,ことさらに原告の名誉を毀損する趣旨のものではなかった。エ 原告の主張スについて。職員会議において,被告aが原告の説明の誤りを指摘したところ,原告が反論して口論になり,その過程で原告が臨床,教育,研究のいずれにも活動が不十分であることを指摘したのであり,原告の主張は,その口論のやりとりを自己に都合の良い部分のみを抜き出したものに過ぎない。

コ 使用者責任の成立には,被告大学が被告aの業務執行に対し指揮監督する関係が必要があるが,直接指揮監督を行う立場にはない。また,被告aの行為について,原告は,e学長に被害を申告したものの,その内容には被害妄想的思い込みが多く,被告aの説明にも合理性があって,それ以上の調査もできなかった。前述の被告大学の対応には問題がない。 (2) 教授昇格差別

ア 教授昇格差別による差額賃金 562万2600円

イ 教授昇格されなかったことに対する慰謝料 1000万円

ウ 退職強要により受給できなかった企業年金 5555万9400円 被告大学は,新企業年金保険契約により,教職員が満65歳の定年時から勤続25年以上の者は10年間,退職時の基準給与の65パーセント相当額の年金受給権がある。原告は,満58歳時である平成12年5月に退職強要行為により退職を余儀なくされたため,この年金受給権を失った。退職の強要がなかったとした場合のライプニッツ方式によって中間利息を控除した年金受給額の最大値は,上記金額である。

エ 退職強要行為により失った退職金額 1779万2434円 被告大学の職員定年退職金規程によれば,原告が平成12年5月の退職強要行為により退職を余儀なくされたため,定年時まで勤務したという仮定で計算した得べかりし退職金額の最大値は,上記金額である。

オ 退職強要行為により給与額 6580万5100円 被告大学の平成12年度給与表によれば,原告が平成12年5月の退職強要行為により退職を余儀なくされたため,定年まで勤務したという仮定で計算した得べかりし給与金額の最大値は額は,上記金額である。

カ 退職強要行為による慰謝料 3000万円

1 教授昇格差別の主張に関する認定事実 証拠(甲45,乙8,14,28,証人e,同f,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,教授昇格差別に関連する事実として,次の事実を認定することができる。

2 教授昇格差別に関する判断 原告は,被告大学には,雇用契約に基づき,公正で平等な処遇をする義務を負い,その結果として,被告大学には,原告を教授に昇格させる義務があると主張するので,この点について検討する。

3 嫌がらせないし退職強要行為の主張に関する認定事実 証拠(甲1~5,45,61~63,66,87,94~96,乙12,13,16,26,29,前記証人j,同e,原告本人,被告a本人)及び弁論の全趣旨によれば,退職強要行為及び嫌がらせに関連する事実として,次の事実を認定することができる。

4 被告aによる名誉毀損及び退職勧奨行為について 前記認定事実のとおり,被告aは,平成10年10月22日の脳神経外科の職員会議における書面配布により,原告を名指ししないものの,研究費を集めることができる人等の要件に該当しないスタッフは,定年までとどまる必要はなく,退職をすべきであると記載することにより,原告自身が自らのことを指していると認識できるような態様の文書を配布した。さらに,被告aは,同年12月15目の忘年会における配布文書において,やはり原告の名指しは避けたものの,原告はもちろん,e学長やj教授にも対象者は原告であると認識できる内容の退職勧奨文書を配布し,同内容の挨拶を多くの被告大学脳神経外科関係者の前で行った。その内容は,スタッフの中には,学会にも出席せず,研究もせず,手術症例もほとんどないお荷物的存在がいること,死に体でこれ以上教室に残り生き恥をさらすというような侮辱的な表現を用いたものであった。さらに,同月17日の被告大学脳神経センター医局室における被告aと原告との口論の中で,医局メンバー等衆人環視の下で,原告に対し,勤務ぶりをなじったり,23年間も助教授をして教授にもなれないのはだめであるという趣旨の発言をして早期に辞職すべきであるという趣旨の発言をしたものである。

5 上記以外の被告大学及び被告aの行為について 原告は,第2の2の(1)(原告の主張)のア~ツの各行為は,ロッキード事件の際に当時のb主任教授が原告を嫌悪したことに端を発して,主任教授が交替しつつも,原告に対して退職強要をする目的で様々な行為が行われてきたものであるから,被告大学は,これらの一連の行為による職場環境調整義務違反の債務不履行責任を負うと主張する。しかしながら,この主張する事実を根拠付ける証拠は,原告の供述(甲45,98,原告本人)のみである。これだけの証拠から24年間にわたる歴代の主任教授による原告の退職強要を目的とする行為が行われたという事実を認めることはできない。してみれば,原告の主張する債務不履行責任を認めるだけの根拠を欠くといわなければならない。

6 損害 前記判断のとおり,原告は,被告aによる名誉毀損的行為から著しい精神的苦痛を受け,医師及び教育者としての社会的評価に影響を与え得る不法行為を受けたものということができる。してみると,この行為による原告の精神的苦痛を慰謝する損害賠償額は,少なくとも400万円を下らないと考えるのが相当である。そして,弁論の全趣旨によれば,原告は,原告代理人らに本件訴訟の訴訟追行を委任したのであり,弁護士費用としての50万円は,本件不法行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。したがって,450万円について,被告らは連帯して賠償義務を負う。

第4 結論 以上の次第であるから,原告の被告らに対する請求は,450万円及び各遅延損害金の限度で理由があるからこれを認容し,原告のその余の請求はいずれも理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。

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