. BLACK MARIA NEVER SLEEPS
BLACK MARIA NEVER SLEEPS
BLACK MARIA NEVER SLEEPS

Без кейворда

だが、『ゴジラ対ヘドラ』は違った。ゴジラがまた恐怖の存在になったのではない。ヘドラがゴジラを凌ぐほどの恐怖の怪獣として登場したのだ。 『ゴジラ対ヘドラ』は冒頭から衝撃的だ。ヘドロに汚染された黒い海(これはセットで撮影されたそうだが)から始まり、続けて麻里圭子の『かえせ!太陽を』で強烈にアジテーションしながらのオープニングクレジットは一度観たら忘れられない。 他にもゴーゴー喫茶の場面で登場する魚人間など、初めて『ゴジラ対ヘドラ』を観たときは「大人になってもトラウマ映画って増えていくんだな」とつくづく感じた。だが、逆に考えればこの映画に刻まれたメッセージはそれほど強いものでもあったのだ。

ゴジラの原点回帰

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『ゴジラ』 シリーズ最強の怪獣

第1作目『ゴジラ』のゴジラは歩くだけで破壊と放射能を撒き散らす恐怖の存在であったが、ヘドラも同様に飛行しながら硫酸ミストや光化学スモッグを撒き散らす。そのため、ヘドラの下にいる生物は骨だけの姿になってしまい、また周囲の生物にも目や喉に異常が出るなどの健康被害を及ぼす。硫酸ミストも光化学スモッグもヘドラの独自の必殺技ではなく、当時実際に公害として工場などから発生した物質だ。 光化学スモッグの被害が日本で初めて明らかになったのは1970年の東京立正中学校・高等学校で43名の生徒が健康被害を訴えたことがきっかけだった。 『ゴジラ対ヘドラ』 の劇中でヘドラの被害に遭った人数は1000万人と『ゴジラ』 シリーズの中で群を抜いて多い。

そして『ゴジラ対ヘドラ』に転写されているのは公害問題のみならず、当時の流行や風俗までが色濃く刻まれている。 1971年といえば安保闘争に始まった学生運動が、その目的を見失なった頃でもある。『ゴジラ対ヘドラ』公開翌年の1972年にはあさま山荘事件が起き、こうした学生運動は急速に支持を失っていく。 学生運動はこの時期の世界の大きな潮流でもあった。フランスでは五月革命が起き、アメリカではベトナム戦争への反対からそれまでの価値観に反抗するヒッピーイズムが流行した。 それまでの価値観に反対したヒッピーは髪を伸ばし、働くことを拒否し、「ラブ&ピース」を掲げて自由な生活を実践した。彼らはドラッグを試し、その時に体験したものはサイケデリックとしてアートとして音楽や絵画によって表現された。『ゴジラ対ヘドラ』のアングラバーの描写もサイケデリックであり、こうしたヒッピー文化を感じることができる(日本ではヒッピーよりもフーテンと呼ばれる方が多かった)。

『ゴジラ対ヘドラ』を「きちんとした」映画として評価するならば、決して高い評価はできない。カットのテンポは悪く、劇映画としての粗もそこかしこに見られる。 だが、その粗を吹き飛ばすほどのアヴァンギャルドな面もある。説明なく挿入されるアニメーションや、クラブでのサイケデリックな演出だ。そこにはジャン=リュック・ゴダールなどの影響を伺わせる。 実際にゴダールをはじめとするヌーヴェルヴァーグの波は日本の映画界にも大きな影響を与えており、日本アート・シアター・ギルドや、松竹ヌーヴェルヴァーグはその象徴だろう。

東宝の危機と厳しい制作環境

『ゴジラ対ヘドラ』は東宝の分社化の影響によって極めて低予算での製作を余儀なくされた。 もともと東宝は戦後すぐの東宝争議によって組合の方が力を持った会社だった。そのおかげで他の映画会社より断トツで給料もよかったという。 だが、カラーテレビの普及によって映画業界は斜陽の時代を迎える。それまで製作や企画、配給まですべて自社の社員で行っていたが、経営のスリム化のために事業ごとに会社を分け、東宝のリストラもあり、予算・人員ともに極めて厳しい状態での撮影となった。 制作費は特撮映画の最盛期の三分の一か四分の一程度で、本編と特撮で班を分けるのではなく、どちらも一つにまとめた一班体制で制作された。 それでも『ゴジラ対ヘドラ』は何度も製作中止の危機があったという。

史上最悪の映画?

だが、何を差し置いてもそのメッセージ性をはじめとして『ゴジラ対ヘドラ』の存在感は強烈だ。 先日、福岡で開催されていた『特撮のDNAーゴジラ 特撮の科学展ー』に行った。 『ゴジラ』に登場した本物のオキシジェン・デストロイヤーの小道具や円谷英二が使った台本などには物凄く興奮した。 残念ながら『ゴジラ対ヘドラ』に登場するアイテムはなかったものの、物販コーナーではゴジラはもちろん、キングギドラやモスラなどの有名怪獣に並んでヘドラのグッズも多かったのが印象的だ。 今なおヘドラの毒は強烈なまま、人々を惹き付けているのだ。

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映画から「時代」と「今」を考察する 「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。 そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。 映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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