源氏物語の和歌 全795首の一覧【検索用】現代語訳と解説も!
※この直前に夕霧は「河口のとこそ、さしいらへまほしかりつれ」と発言している。「河口」とは催馬楽の曲名である。「河口の 関の荒垣や 関の荒垣や 守れども はれ 守れども 出でて我寝ぬや 出でて我寝ぬや 関の荒垣」親に厳しく監視されていた女が、抜け出して男と共寝をしてしまったという歌。弁少将が催馬楽の「葦垣」を歌い、「夕霧は夜這いをした」とあてこすったので夕霧は「河口と言ってやりたかった」(雲居雁は親の目を盗んで自分と逢った)と語ったのである。雲居雁は催馬楽の「河口」を引歌としてこの和歌を詠んだ。
漏りにける 岫田の関を 河口の 浅きにのみは おほせざらなむ とがむなよ 忍びにしぼる 手もたゆみ 今日あらはるる 袖のしづくを 何とかや 今日のかざしよ かつ見つつ おぼめくまでも なりにけるかな かざしても かつたどらるる 草の名は 桂を折りし 人や知るらむ 浅緑 若葉の菊を 露にても 濃き紫の 色とかけきや 双葉より 名立たる園の 菊なれば 浅き色わく 露もなかりき なれこそは 岩守るあるじ 見し人の 行方は知るや 宿の真清水 亡き人の 影だに見えず つれなくて 心をやれる いさらゐの水 そのかみの 老木はむべも 朽ちぬらむ 植ゑし小松も 苔生ひにけり いづれをも 蔭とぞ頼む 双葉より 根ざし交はせる 松の末々 色まさる 籬の菊も 折々に 袖うちかけし 秋を恋ふらし 紫の 雲にまがへる 菊の花 濁りなき世の 星かとぞ見る 秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の 折をこそ見ね 世の常の 紅葉とや見る いにしへの ためしにひける 庭の錦を 若菜上(24首) さしながら 昔を今に 伝ふれば 玉の小櫛ぞ 神さびにける さしつぎに 見るものにもが 万世を 黄楊の小櫛の 神さぶるまで 若葉さす 野辺の小松を 引き連れて もとの岩根を 祈る今日かな 小松原 末の齢に 引かれてや 野辺の若菜も 年を摘むべき 目に近く 移れば変はる 世の中を 行く末遠く 頼みけるかな 命こそ 絶ゆとも絶えめ 定めなき 世の常ならぬ 仲の契りを 中道を 隔つるほどは なけれども 心乱るる 今朝のあは雪 はかなくて うはの空にぞ 消えぬべき 風にただよふ 春のあは雪 背きにし この世に残る 心こそ 入る山路の ほだしなりけれ 背く世の うしろめたくは さりがたき ほだしをしひて かけな離れそ 年月を なかに隔てて 逢坂の さも塞きがたく 落つる涙か 涙のみ 塞きとめがたき 清水にて ゆき逢ふ道は はやく絶えにき 沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身も投げつべき 宿の藤波 身を投げむ 淵もまことの 淵ならで かけじやさらに こりずまの波 身に近く 秋や来ぬらむ 見るままに 青葉の山も 移ろひにけり 水鳥の 青羽は色も 変はらぬを 萩の下こそ けしきことなれ 老の波 かひある浦に 立ち出でて しほたるる海人を 誰れかとがめむ しほたるる 海人を波路の しるべにて 尋ねも見ばや 浜の苫屋を 世を捨てて 明石の浦に 住む人も 心の闇は はるけしもせじ 光出でむ 暁近く なりにけり 今ぞ見し世の 夢語りする いかなれば 花に木づたふ 鴬の 桜をわきて ねぐらとはせぬ 深山木に ねぐら定むる はこ鳥も いかでか花の 色に飽くべき よそに見て 折らぬ嘆きは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ いまさらに 色にな出でそ 山桜 およばぬ枝に 心かけきと 若菜下(18首) 恋ひわぶる 人のかたみと 手ならせば なれよ何とて 鳴く音なるらむ 誰れかまた 心を知りて 住吉の 神代を経たる 松にこと問ふ 住の江を いけるかひある 渚とは 年経る尼も 今日や知るらむ 昔こそ まづ忘られね 住吉の 神のしるしを 見るにつけても 住の江の 松に夜深く 置く霜は 神の掛けたる 木綿鬘かも 神人の 手に取りもたる 榊葉に 木綿かけ添ふる 深き夜の霜 祝子が 木綿うちまがひ 置く霜は げにいちじるき 神のしるしか 起きてゆく 空も知られぬ 明けぐれに いづくの露の かかる袖なり 明けぐれの 空に憂き身は 消えななむ 夢なりけりと 見てもやむべく 悔しくぞ 摘み犯しける 葵草 神の許せる かざしならぬに もろかづら 落葉を何に 拾ひけむ 名は睦ましき かざしなれども わが身こそ あらぬさまなれ それながら そらおぼれする 君は君なり六条御息所<死霊> ⇒ 光源氏 (贈歌)
消え止まる ほどやは経べき たまさかに 蓮の露の かかるばかりを 契り置かむ この世ならでも 蓮葉に 玉ゐる露の 心隔つな 夕露に 袖濡らせとや ひぐらしの 鳴くを聞く聞く 起きて行くらむ 待つ里も いかが聞くらむ 方がたに 心騒がす ひぐらしの声 海人の世を よそに聞かめや 須磨の浦に 藻塩垂れしも 誰れならなくに 海人舟に いかがは思ひ おくれけむ 明石の浦に いさりせし君 柏木(11首) 今はとて 燃えむ煙も むすぼほれ 絶えぬ思ひの なほや残らむ 立ち添ひて 消えやしなまし 憂きことを 思ひ乱るる 煙比べに 行方なき 空の煙と なりぬとも 思ふあたりを 立ちは離れじ 誰が世にか 種は蒔きしと 人問はば いかが岩根の 松は答へむ 時しあれば 変はらぬ色に 匂ひけり 片枝枯れにし 宿の桜も この春は 柳の芽にぞ 玉はぬく 咲き散る花の 行方知らねば 木の下の 雫に濡れて さかさまに 霞の衣 着たる春かな 亡き人も 思はざりけむ うち捨てて 夕べの霞 君着たれとは 恨めしや 霞の衣 誰れ着よと 春よりさきに 花の散りけむ ことならば 馴らしの枝に ならさなむ 葉守の神の 許しありきと 柏木に 葉守の神は まさずとも 人ならすべき 宿の梢か 横笛(8首) 世を別れ 入りなむ道は おくるとも 同じところを 君も尋ねよ 憂き世には あらぬところの ゆかしくて 背く山路に 思ひこそ入れ 憂き節も 忘れずながら 呉竹の こは捨て難き ものにぞありける ことに出でて 言はぬも言ふに まさるとは 人に恥ぢたる けしきをぞ見る 深き夜の あはればかりは 聞きわけど ことより顔に えやは弾きける 露しげき むぐらの宿に いにしへの 秋に変はらぬ 虫の声かな 横笛の 調べはことに 変はらぬを むなしくなりし 音こそ尽きせね 笛竹に 吹き寄る風の ことならば 末の世長き ねに伝へなむ 鈴虫(6首) 蓮葉を 同じ台と 契りおきて 露の分かるる 今日ぞ悲しき 隔てなく 蓮の宿を 契りても 君が心や 住まじとすらむ おほかたの 秋をば憂しと 知りにしを ふり捨てがたき 鈴虫の声 心もて 草の宿りを 厭へども なほ鈴虫の 声ぞふりせぬ 雲の上を かけ離れたる すみかにも もの忘れせぬ 秋の夜の月 月影は 同じ雲居に 見えながら わが宿からの 秋ぞ変はれる 夕霧(26首) 山里の あはれを添ふる 夕霧に 立ち出でむ空も なき心地して 山賤の 籬をこめて 立つ霧も 心そらなる 人はとどめず女二の宮<落葉の宮> ⇒ 夕霧 (返歌)
我のみや 憂き世を知れる ためしにて 濡れそふ袖の 名を朽たすべき女二の宮<落葉の宮> ⇒ 夕霧 (贈歌)
おほかたは 我濡衣を 着せずとも 朽ちにし袖の 名やは隠るる 荻原や 軒端の露に そぼちつつ 八重立つ霧を 分けぞ行くべき 分け行かむ 草葉の露を かことにて なほ濡衣を かけむとや思ふ女二の宮<落葉の宮> ⇒ 夕霧 (返歌)
魂を つれなき袖に 留めおきて わが心から 惑はるるかな せくからに 浅さぞ見えむ 山川の 流れての名を つつみ果てずは 女郎花 萎るる野辺を いづことて 一夜ばかりの 宿を借りけむ 秋の野の 草の茂みは 分けしかど 仮寝の枕 結びやはせし あはれをも いかに知りてか 慰めむ あるや恋しき 亡きや悲しき いづれとか 分きて眺めむ 消えかへる 露も草葉の うへと見ぬ世を 里遠み 小野の篠原 わけて来て 我も鹿こそ 声も惜しまね 藤衣 露けき秋の 山人は 鹿の鳴く音に 音をぞ添へつる 見し人の 影澄み果てぬ 池水に ひとり宿守る 秋の夜の月 いつとかは おどろかすべき 明けぬ夜の 夢覚めてとか 言ひしひとこと 朝夕に 泣く音を立つる 小野山は 絶えぬ涙や 音無の滝 のぼりにし 峰の煙に たちまじり 思はぬ方に なびかずもがな 恋しさの 慰めがたき 形見にて 涙にくもる 玉の筥かな 怨みわび 胸あきがたき 冬の夜に また鎖しまさる 関の岩門 馴るる身を 恨むるよりは 松島の 海人の衣に 裁ちやかへまし 松島の 海人の濡衣 なれぬとて 脱ぎ替へつてふ 名を立ためやは 契りあれや 君を心に とどめおきて あはれと思ふ 恨めしと聞く 何ゆゑか 世に数ならぬ 身ひとつを 憂しとも思ひ かなしとも聞く 数ならば 身に知られまし 世の憂さを 人のためにも 濡らす袖かな 人の世の 憂きをあはれと 見しかども 身にかへむとは 思はざりしを 御法(12首) 惜しからぬ この身ながらも かぎりとて 薪尽きなむ ことの悲しさ 薪こる 思ひは今日を 初めにて この世に願ふ 法ぞはるけき 絶えぬべき 御法ながらぞ 頼まるる 世々にと結ぶ 中の契りを 結びおく 契りは絶えじ おほかたの 残りすくなき 御法なりとも おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風に乱るる 萩のうは露 ややもせば 消えをあらそふ 露の世に 後れ先だつ ほど経ずもがな 秋風に しばしとまらぬ 露の世を 誰れか草葉の うへとのみ見む いにしへの 秋の夕べの 恋しきに 今はと見えし 明けぐれの夢 いにしへの 秋さへ今の 心地して 濡れにし袖に 露ぞおきそふ致仕大臣<頭中将> ⇒ 光源氏 (贈歌)
露けさは 昔今とも おもほえず おほかた秋の 夜こそつらけれ光源氏 ⇒ 致仕大臣<頭中将> (返歌)
枯れ果つる 野辺を憂しとや 亡き人の 秋に心を とどめざりけむ 昇りにし 雲居ながらも かへり見よ われ飽きはてぬ 常ならぬ世に 幻(26首) わが宿は 花もてはやす 人もなし 何にか春の たづね来つらむ 香をとめて 来つるかひなく おほかたの 花のたよりと 言ひやなすべき 憂き世には 雪消えなむと 思ひつつ 思ひの外に なほぞほどふる 植ゑて見し 花のあるじも なき宿に 知らず顔にて 来ゐる鴬 今はとて 荒らしや果てむ 亡き人の 心とどめし 春の垣根を なくなくも 帰りにしかな 仮の世は いづこもつひの 常世ならぬに 雁がゐし 苗代水の 絶えしより 映りし花の 影をだに見ず 夏衣 裁ち替へてける 今日ばかり 古き思ひも すすみやはせぬ 羽衣の 薄きに変はる 今日よりは 空蝉の世ぞ いとど悲しき さもこそは よるべの水に 水草ゐめ 今日のかざしよ 名さへ忘るる おほかたは 思ひ捨ててし 世なれども 葵はなほや 摘みをかすべき 亡き人を 偲ぶる宵の 村雨に 濡れてや来つる 山ほととぎす ほととぎす 君につてなむ ふるさとの 花橘は 今ぞ盛りと つれづれと わが泣き暮らす 夏の日を かことがましき 虫の声かな 夜を知る 蛍を見ても 悲しきは 時ぞともなき 思ひなりけり 七夕の 逢ふ瀬は雲の よそに見て 別れの庭に 露ぞおきそふ 君恋ふる 涙は際も なきものを 今日をば何の 果てといふらむ 人恋ふる わが身も末に なりゆけど 残り多かる 涙なりけり もろともに おきゐし菊の 白露も 一人袂に かかる秋かな 大空を かよふ幻 夢にだに 見えこぬ魂の 行方たづねよ 宮人は 豊明と いそぐ今日 日影も知らで 暮らしつるかな 死出の山 越えにし人を 慕ふとて 跡を見つつも なほ惑ふかな かきつめて 見るもかひなし 藻塩草 同じ雲居の 煙とをなれ 春までの 命も知らず 雪のうちに 色づく梅を 今日かざしてむ 千世の春 見るべき花と 祈りおきて わが身ぞ雪と ともにふりぬる もの思ふと 過ぐる月日も 知らぬまに 年もわが世も 今日や尽きぬる 匂宮(1首) おぼつかな 誰れに問はまし いかにして 初めも果ても 知らぬわが身ぞ 紅梅(4首) 心ありて 風の匂はす 園の梅に まづ鴬の 訪はずやあるべき 花の香に 誘はれぬべき 身なりせば 風のたよりを 過ぐさましやは 本つ香の 匂へる君が 袖触れば 花もえならぬ 名をや散らさむ 花の香を 匂はす宿に 訪めゆかば 色にめづとや 人の咎めむ 竹河(24首) 折りて見ば いとど匂ひも まさるやと すこし色めけ 梅の初花 よそにては もぎ木なりとや 定むらむ 下に匂へる 梅の初花 人はみな 花に心を 移すらむ 一人ぞ惑ふ 春の夜の闇 をりからや あはれも知らむ 梅の花 ただ香ばかりに 移りしもせじ 竹河の 橋うちいでし 一節に 深き心の 底は知りきや直前に薫は催馬楽「竹河」を歌っている。「竹河の 橋のつめなるや 橋のつめなるや 花園に はれ 花園に 我をば放てや 我をば放てや少女伴へて」
竹河に 夜を更かさじと いそぎしも いかなる節を 思ひおかまし 桜ゆゑ 風に心の 騒ぐかな 思ひぐまなき 花と見る見る 咲くと見て かつは散りぬる 花なれば 負くるを深き 恨みともせず 風に散る ことは世の常 枝ながら 移ろふ花を ただにしも見じ 心ありて 池のみぎはに 落つる花 あわとなりても わが方に寄れ 大空の 風に散れども 桜花 おのがものとぞ かきつめて見る 桜花 匂ひあまたに 散らさじと おほふばかりの 袖はありやは つれなくて 過ぐる月日を かぞへつつ もの恨めしき 暮の春かな いでやなぞ 数ならぬ身に かなはぬは 人に負けじの 心なりけり蔵人の少将 ⇒ 中将の御許 (贈歌)
わりなしや 強きによらむ 勝ち負けを 心一つに いかがまかする中将の御許 ⇒ 蔵人の少将 (返歌)
あはれとて 手を許せかし 生き死にを 君にまかする わが身とならば蔵人の少将 ⇒ 中将の御許 (贈歌)
花を見て 春は暮らしつ 今日よりや しげき嘆きの 下に惑はむ 今日ぞ知る 空を眺むる けしきにて 花に心を 移しけりとも あはれてふ 常ならぬ世の 一言も いかなる人に かくるものぞは 生ける世の 死には心に まかせねば 聞かでややまむ 君が一言 手にかくる ものにしあらば 藤の花 松よりまさる 色を見ましや 紫の 色はかよへど 藤の花 心にえこそ かからざりけれ 竹河の その夜のことは 思ひ出づや しのぶばかりの 節はなけれど 流れての 頼めむなしき 竹河に 世は憂きものと 思ひ知りにき 橋姫(13首) うち捨てて つがひ去りにし 水鳥の 仮のこの世に たちおくれけむ いかでかく 巣立ちけるぞと 思ふにも 憂き水鳥の 契りをぞ知る 泣く泣くも 羽うち着する 君なくは われぞ巣守に なりは果てまし 見し人も 宿も煙に なりにしを 何とてわが身 消え残りけむ 世を厭ふ 心は山に かよへども 八重立つ雲を 君や隔つる あと絶えて 心澄むとは なけれども 世を宇治山に 宿をこそ借れ 山おろしに 耐へぬ木の葉の 露よりも あやなくもろき わが涙かな あさぼらけ 家路も見えず 尋ね来し 槙の尾山は 霧こめてけり 雲のゐる 峰のかけ路を 秋霧の いとど隔つる ころにもあるかな 橋姫の 心を汲みて 高瀬さす 棹のしづくに 袖ぞ濡れぬる さしかへる 宇治の河長 朝夕の しづくや袖を 朽たし果つらむ 目の前に この世を背く 君よりも よそに別るる 魂ぞ悲しき 命あらば それとも見まし 人知れぬ 岩根にとめし 松の生ひ末 椎本(21首) 山風に 霞吹きとく 声はあれど 隔てて見ゆる 遠方の白波 遠方こちの 汀に波は 隔つとも なほ吹きかよへ 宇治の川風 山桜 匂ふあたりに 尋ね来て 同じかざしを 折りてけるかな かざし折る 花のたよりに 山賤の 垣根を過ぎぬ 春の旅人 われなくて 草の庵は 荒れぬとも このひとことは かれじとぞ思ふ いかならむ 世にかかれせむ 長き世の 契りむすべる 草の庵は 牡鹿鳴く 秋の山里 いかならむ 小萩が露の かかる夕暮 涙のみ 霧りふたがれる 山里は 籬に鹿ぞ 諸声に鳴く 朝霧に 友まどはせる 鹿の音を おほかたにやは あはれとも聞く 色変はる 浅茅を見ても 墨染に やつるる袖を 思ひこそやれ 色変はる 袖をば露の 宿りにて わが身ぞさらに 置き所なき 秋霧の 晴れぬ雲居に いとどしく この世をかりと 言ひ知らすらむ 君なくて 岩のかけ道 絶えしより 松の雪をも なにとかは見る 奥山の 松葉に積もる 雪とだに 消えにし人を 思はましかば 雪深き 山のかけはし 君ならで またふみかよふ 跡を見ぬかな つららとぢ 駒ふみしだく 山川を しるべしがてら まづや渡らむ 立ち寄らむ 蔭と頼みし 椎が本 空しき床に なりにけるかな 君が折る 峰の蕨と 見ましかば 知られやせまし 春のしるしも 雪深き 汀の小芹 誰がために 摘みかはやさむ 親なしにして つてに見し 宿の桜を この春は 霞隔てず 折りてかざさむ いづことか 尋ねて折らむ 墨染に 霞みこめたる 宿の桜を 総角(31首) あげまきに 長き契りを 結びこめ 同じ所に 縒りも会はなむ【現代語訳】 総角 あげまき に末長い約束を結びこめてあなたと一緒になりたいものです
※催馬楽の「 角総 あげまき 」の歌詞を踏まえた和歌。
<総角>「総角や トウトウ 尋ばかりや トウトウ 離(さか)りて寝たれども 転(まろ)びあひけり トウトウ か寄りあひけり トウトウ」
総角とは古代の子どもの髪型のことで、その髪型をした子どものことも指す。総角結びといって、結び方を指すこともある。「結び」「 縒 よ り」は「総角」の縁語である。
ぬきもあへず もろき涙の 玉の緒に 長き契りを いかが結ばむ 山里の あはれ知らるる 声々に とりあつめたる 朝ぼらけかな 鳥の音も 聞こえぬ山と 思ひしを 世の憂きことは 訪ね来にけり おなじ枝を 分きて染めける 山姫に いづれか深き 色と問はばや 山姫の 染むる心は わかねども 移ろふ方や 深きなるらむ 女郎花 咲ける大野を ふせぎつつ 心せばくや しめを結ふらむ 霧深き 朝の原の 女郎花 心を寄せて 見る人ぞ見る しるべせし 我やかへりて 惑ふべき 心もゆかぬ 明けぐれの道 かたがたに くらす心を 思ひやれ 人やりならぬ 道に惑はば 世の常に 思ひやすらむ 露深き 道の笹原 分けて来つるも 小夜衣 着て馴れきとは 言はずとも かことばかりは かけずしもあらじ 隔てなき 心ばかりは 通ふとも 馴れし袖とは かけじとぞ思ふ 中絶えむ ものならなくに 橋姫の 片敷く袖や 夜半に濡らさむ 絶えせじの わが頼みにや 宇治橋の 遥けきなかを 待ちわたるべき いつぞやも 花の盛りに 一目見し 木のもとさへや 秋は寂しき 桜こそ 思ひ知らすれ 咲き匂ふ 花も紅葉も 常ならぬ世を いづこより 秋は行きけむ 山里の 紅葉の蔭は 過ぎ憂きものを 見し人も なき山里の 岩垣に 心長くも 這へる葛かな 秋はてて 寂しさまさる 木のもとを 吹きな過ぐしそ 峰の松風 若草の ね見むものとは 思はねど むすぼほれたる 心地こそすれ 眺むるは 同じ雲居を いかなれば おぼつかなさを 添ふる時雨ぞ 霰降る 深山の里は 朝夕に 眺むる空も かきくらしつつ 霜さゆる 汀の千鳥 うちわびて 鳴く音悲しき 朝ぼらけかな 暁の 霜うち払ひ 鳴く千鳥 もの思ふ人の 心をや知る かき曇り 日かげも見えぬ 奥山に 心をくらす ころにもあるかな くれなゐに 落つる涙も かひなきは 形見の色を 染めぬなりけり おくれじと 空ゆく月を 慕ふかな つひに住むべき この世ならねば 恋ひわびて 死ぬる薬の ゆかしきに 雪の山にや 跡を消なまし 来し方を 思ひ出づるも はかなきを 行く末かけて なに頼むらむ 行く末を 短きものと 思ひなば 目の前にだに 背かざらなむ 早蕨(15首) 君にとて あまたの春を 摘みしかば 常を忘れぬ 初蕨なり この春は 誰れにか見せむ 亡き人の かたみに摘める 峰の早蕨 折る人の 心にかよふ 花なれや 色には出でず 下に匂へる 見る人に かこと寄せける 花の枝を 心してこそ 折るべかりけれ はかなしや 霞の衣 裁ちしまに 花のひもとく 折も来にけり 見る人も あらしにまよふ 山里に 昔おぼゆる 花の香ぞする 袖ふれし 梅は変はらぬ 匂ひにて 根ごめ移ろふ 宿やことなる さきに立つ 涙の川に 身を投げば 人におくれぬ 命ならまし 身を投げむ 涙の川に 沈みても 恋しき瀬々に 忘れしもせじ 人はみな いそぎたつめる 袖の浦に 一人藻塩を 垂るる海人かな 塩垂るる 海人の衣に 異なれや 浮きたる波に 濡るるわが袖 ありふれば うれしき瀬にも 逢ひけるを 身を宇治川に 投げてましかば 過ぎにしが 恋しきことも 忘れねど 今日はたまづも ゆく心かな 眺むれば 山より出でて 行く月も 世に住みわびて 山にこそ入れ しなてるや 鳰の湖に 漕ぐ舟の まほならねども あひ見しものを 宿木(24首) 世の常の 垣根に匂ふ 花ならば 心のままに 折りて見ましを 霜にあへず 枯れにし園の 菊なれど 残りの色は あせずもあるかな 今朝の間の 色にや賞でむ 置く露の 消えぬにかかる 花と見る見る よそへてぞ 見るべかりける 白露の 契りかおきし 朝顔の花 消えぬまに 枯れぬる花の はかなさに おくるる露は なほぞまされる 大空の 月だに宿る わが宿に 待つ宵過ぎて 見えぬ君かな 山里の 松の蔭にも かくばかり 身にしむ秋の 風はなかりき 女郎花 しをれぞまさる 朝露の いかに置きける 名残なるらむ おほかたに 聞かましものを ひぐらしの 声恨めしき 秋の暮かな うち渡し 世に許しなき 関川を みなれそめけむ 名こそ惜しけれ 深からず 上は見ゆれど 関川の 下の通ひは 絶ゆるものかは いたづらに 分けつる道の 露しげみ 昔おぼゆる 秋の空かな また人に 馴れける袖の 移り香を わが身にしめて 恨みつるかな みなれぬる 中の衣と 頼めしを かばかりにてや かけ離れなむ 結びける 契りことなる 下紐を ただ一筋に 恨みやはする 宿り木と 思ひ出でずは 木のもとの 旅寝もいかに さびしからまし 荒れ果つる 朽木のもとを 宿りきと 思ひおきける ほどの悲しさ 穂に出でぬ もの思ふらし 篠薄 招く袂の 露しげくして 秋果つる 野辺のけしきも 篠薄 ほのめく風に つけてこそ知れ すべらきの かざしに折ると 藤の花 及ばぬ枝に 袖かけてけり よろづ世を かけて匂はむ 花なれば 今日をも飽かぬ 色とこそ見れ 君がため 折れるかざしは 紫の 雲に劣らぬ 花のけしきか 世の常の 色とも見えず 雲居まで たち昇りたる 藤波の花 貌鳥の 声も聞きしに かよふやと 茂みを分けて 今日ぞ尋ぬる 東屋(11首) 見し人の 形代ならば 身に添へて 恋しき瀬々の なでものにせむ みそぎ河 瀬々に出ださむ なでものを 身に添ふ影と 誰れか頼まむ しめ結ひし 小萩が上も 迷はぬに いかなる露に 映る下葉ぞ 宮城野の 小萩がもとと 知らませば 露も心を 分かずぞあらまし ひたぶるに うれしからまし 世の中に あらぬ所と 思はましかば 憂き世には あらぬ所を 求めても 君が盛りを 見るよしもがな 絶え果てぬ 清水になどか 亡き人の 面影をだに とどめざりけむ さしとむる 葎 むぐら やしげき 東屋の あまりほど降る 雨そそきかな※催馬楽「 東屋 あずまや 」の歌詞を踏まえる。
東屋 あずまや の 真屋 まや のあまりの その 雨 あま そそぎ我立ち濡れぬ 殿戸開かせ 鎹 かすがひ も 錠 とざし もあらばこそ その殿戸 我鎖 われさ さめ 押し開いてきませ 我や人妻
形見ぞと 見るにつけては 朝露の ところせきまで 濡るる袖かな 宿り木は 色変はりぬる 秋なれど 昔おぼえて 澄める月かな 里の名も 昔ながらに 見し人の 面変はりせる 閨の月影 浮舟(22首) まだ古りぬ 物にはあれど 君がため 深き心に 待つと知らなむ 長き世を 頼めてもなほ 悲しきは ただ明日知らぬ 命なりけり 心をば 嘆かざらまし 命のみ 定めなき世と 思はましかば 世に知らず 惑ふべきかな 先に立つ 涙も道を かきくらしつつ 涙をも ほどなき袖に せきかねて いかに別れを とどむべき身ぞ 宇治橋の 長き契りは 朽ちせじを 危ぶむ方に 心騒ぐな 絶え間のみ 世には危ふき 宇治橋を 朽ちせぬものと なほ頼めとや 年経とも 変はらむものか 橘の 小島の崎に 契る心は 橘の 小島の色は 変はらじを この浮舟ぞ 行方知られぬ 峰の雪 みぎはの氷 踏み分けて 君にぞ惑ふ 道は惑はず 降り乱れ みぎはに凍る 雪よりも 中空にてぞ 我は消ぬべき 眺めやる そなたの雲も 見えぬまで 空さへ暮るる ころのわびしさ 水まさる 遠方の里人 いかならむ 晴れぬ長雨に かき暮らすころ 里の名を わが身に知れば 山城の 宇治のわたりぞ いとど住み憂き かき暮らし 晴れせぬ峰の 雨雲に 浮きて世をふる 身をもなさばや つれづれと 身を知る雨の 小止まねば 袖さへいとど みかさまさりて 波越ゆる ころとも知らず 末の松 待つらむとのみ 思ひけるかな いづくにか 身をば捨てむと 白雲の かからぬ山も 泣く泣くぞ行く 嘆きわび 身をば捨つとも 亡き影に 憂き名流さむ ことをこそ思へ からをだに 憂き世の中に とどめずは いづこをはかと 君も恨みむ 後にまた あひ見むことを 思はなむ この世の夢に 心惑はで 鐘の音の 絶ゆる響きに 音を添へて わが世尽きぬと 君に伝へよ 蜻蛉(11首) 忍び音や 君も泣くらむ かひもなき 死出の田長に 心通はば 橘の 薫るあたりは ほととぎす 心してこそ 鳴くべかりけれ 我もまた 憂き古里を 荒れはてば 誰れ宿り木の 蔭をしのばむ あはれ知る 心は人に おくれねど 数ならぬ身に 消えつつぞ経る 常なしと ここら世を見る 憂き身だに 人の知るまで 嘆きやはする 荻の葉に 露吹き結ぶ 秋風も 夕べぞわきて 身にはしみける 女郎花 乱るる野辺に 混じるとも 露のあだ名を 我にかけめや 花といへば 名こそあだなれ 女郎花 なべての露に 乱れやはする 旅寝して なほこころみよ 女郎花 盛りの色に 移り移らず 宿貸さば 一夜は寝なむ おほかたの 花に移らぬ 心なりとも ありと見て 手にはとられず 見ればまた 行方も知らず 消えし蜻蛉 手習(28首) 身を投げし 涙の川の 早き瀬を しがらみかけて 誰れか止めし 我かくて 憂き世の中に めぐるとも 誰れかは知らむ 月の都に あだし野の 風になびくな 女郎花 我しめ結はむ 道遠くとも 移し植ゑて 思ひ乱れぬ 女郎花 憂き世を背く 草の庵に 松虫の 声を訪ねて 来つれども また萩原の 露に惑ひぬ 秋の野の 露分け来たる 狩衣 葎茂れる 宿にかこつな 深き夜の 月をあはれと 見ぬ人や 山の端近き 宿に泊らぬ 山の端に 入るまで月を 眺め見む 閨の板間も しるしありやと 忘られぬ 昔のことも 笛竹の つらきふしにも 音ぞ泣かれける 笛の音に 昔のことも 偲ばれて 帰りしほども 袖ぞ濡れにし はかなくて 世に古川の 憂き瀬には 尋ねも行かじ 二本の杉 古川の 杉のもとだち 知らねども 過ぎにし人に よそへてぞ見る 心には 秋の夕べを 分かねども 眺むる袖に 露ぞ乱るる 山里の 秋の夜深き あはれをも もの思ふ人は 思ひこそ知れ 憂きものと 思ひも知らで 過ぐす身を もの思ふ人と 人は知りけり なきものに 身をも人をも 思ひつつ 捨ててし世をぞ さらに捨てつる 限りぞと 思ひなりにし 世の中を 返す返すも 背きぬるかな 岸遠く 漕ぎ離るらむ 海人舟に 乗り遅れじと 急がるるかな 心こそ 憂き世の岸を 離るれど 行方も知らぬ 海人の浮木を 木枯らしの 吹きにし山の 麓には 立ち隠すべき 蔭だにぞなき 待つ人も あらじと思ふ 山里の 梢を見つつ なほぞ過ぎ憂き おほかたの 世を背きける 君なれど 厭ふによせて 身こそつらけれ かきくらす 野山の雪を 眺めても 降りにしことぞ 今日も悲しき 山里の 雪間の若菜 摘みはやし なほ生ひ先の 頼まるるかな 雪深き 野辺の若菜も 今よりは 君がためにぞ 年も摘むべき 袖触れし 人こそ見えね 花の香の それかと匂ふ 春のあけぼの 見し人は 影も止まらぬ 水の上に 落ち添ふ涙 いとどせきあへず 尼衣 変はれる身にや ありし世の 形見に袖を かけて偲ばむ 夢浮橋(1首) 法の師と 尋ぬる道を しるべにて 思はぬ山に 踏み惑ふかな 催馬楽の歌詞一覧【現代語訳と解説つき】 催馬楽の歌詞一覧を紹介しています。わかりやすい現代語訳と簡単な解説もつけています。『源氏物語』で歌われたり、引用されたりしているものは、簡単に説明してあります。 よかったらシェアしてね! URLをコピーしました! URLをコピーしました!- 源氏物語の和歌で有名なものを13首紹介!恋・花・月・春夏秋冬の和歌も分類しました。
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