2025年11月18日に発生した大分県佐賀関大火はなぜここまで大規模になったのか?
さて著者は,糸魚川市大規模火災の約10日後に「糸魚川大火のような都市大火は,わが国で今後発生するのか?」という記事を執筆し,そのなかで「(同規模の都市大火は地震時なども含めると)「再発の可能性はある」と言わざるを得ません.」と断定しましたが,それから約9年が経過した今回,はからずも同規模以上の大規模な火災が発生してしまいました.そこで本記事では,現段階で報道等により得られた情報等から,本火災がなぜここまで大きくなってしまったのかについて考えてみたいと思います.
約50年ぶりの都市大火調査中ではあるものの,現段階で本火災の焼失面積は48,900平米と総務省消防庁は報告しており,これによれば本火災は「都市大火」となります.これは上記の「糸魚川大火のような都市大火は,わが国で今後発生するのか?」という記事内にも詳述しているところですが,そもそも「大火」という言葉は,焼失範囲の長さや面積を基準とした様々な定義がありつつも,焼失した面積が33,000平米(1万坪)を越える火災を「大火」としています(例えば「消防白書」など).このような大規模な市街地火災はわが国で古来より頻繁に発生しており,特に江戸時代は10万人が亡くなったと言われる明暦の大火を代表として,数多くの大火が起きていました.なかでも約50年前の1976年に発生した酒田大火は最後の都市大火といわれ,これを最後に市街地における(地震を原因とするものを除いた)「平常時の大火」は発生していませんでした.そして大火が起きなくなったのは,延焼を遮断しうる広幅員道路や建物の耐火性能の向上,何より消防技術の進展と常備化の結果であると解釈されてきたところです.糸魚川市大規模火災は筆者の記事執筆後,消防庁による詳細な調査の末に焼損床面積が33,000平米を下回ったことが判明し大火の基準には至らなかったため,糸魚川市大規模火災と呼称されるようになりました.しかしながら今回,消防庁の記録によれば,酒田大火以来約50年ぶりの都市大火が発生してしまったことになります.
要因(1) 強風とそれに伴う飛び火 要因(2) 木造密集市街地という市街地特性さて,図1は国土地理院のサイトから最新の地理院地図をお借りして,本火災の焼失区域付近(左側)と糸魚川市大規模火災の焼失区域(右側)を同一スケールで並べたものになります(文献2).このなかで,本火災の焼失区域と予想される場所を左側の赤枠で示し,糸魚川市大規模火災の焼失区域のすぐ東の区画を青枠で示しました(青枠の西部は大規模火災後に復興した市街地).両者を見比べていただければ,佐賀関の市街地と糸魚川の市街地で,建物の密度,特に空地の数や道路の広さが大きく異なることがお分かりいただけると思います.空地は大規模火災時に焼け止まりとしても機能しますし消防活動にも使えます.また,道路が狭ければ狭いほどポンプ車の侵入や放水は難しくなり,何より建物間距離が狭いことは接炎や輻射熱の影響で建物間が燃えやすくなることを意味します.両者を見比べることで,同じ「木造密集市街地」であっても,本火災の焼失区域付近は特に延焼しやすく消しにくい場所であった,と言えるでしょう.
ところで同様に,同一スケールで今回の焼失区域と大都市部のある任意の市街地を並べて示したものが,図2になります.この図を見ると,非木造建物の多寡が異なるとはいえ,同様の密度を有した,そしてさらに広く連坦した広がりを持つ市街地はわが国(の大都市部を中心)にたくさんあることがお分かりいただけると思います.今回は平常時における強風時の大火ですが,特に消防力が劣勢になりやすく,同時多発出火や揺れによる被害がもたらす建築物の火災安全性能低下が懸念される地震火災は,わが国の市街地が有する深刻な災害リスクと言えるでしょう.
佐賀関で発生した火災と同規模の都市大火は、今後起きうるのか1) 総務省消防庁:大分県大分市において発生した火災による被害及び消防機関等の対応状況(第3報) ,2025.
東京大学先端科学技術研究センター・教授/都市工学者東京大学先端科学技術研究センター・教授。1978年10月東京都文京区生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・博士課程を2年次に中退、同・特任助教、名古屋大学減災連携研究センター・准教授、東京大学大学院工学系研究科・准教授を経て2021年8月より東京大学大学院工学系研究科・教授。博士(工学)、専門は都市防災、都市計画。平成28年度東京大学卓越研究員、2016-2020 JSTさきがけ研究員(兼任)。受賞に令和5年防災功労者・内閣総理大臣表彰,令和5年文部科学大臣表彰・科学技術賞,平成24年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞、東京大学工学部Best Teaching Awardなど
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